これはわたくしの勝手な想像ですが、科挙に合格したような秀才の編集員が、渾身の原稿をプロジェクトマスター、今風に言えばプロデューサーに見せたところ、
「お前の書く話はつまらんのう。読んでもらいたかったら、もっと話を盛ってもええから、おもろい話を書かんかい!没、ボツ、ボーツ!!」
と一喝され、原稿を宙に放り投げられて当代一の秀才が泣きながら原稿を書き直している――そんな光景が目に浮かぶのです。正史というお堅い看板の裏側で、案外そういうやり取りが日常茶飯事だったのではないか?という気がしてならないのでした。
🗺️ 中国のAIユーザーが作った「江山地図」
とある日、SNSをぼんやり眺めていたら、中国のAIユーザーが戦国時代から現代までを網羅したインタラクティブ地図をGitHubで公開しているという話が流れてきました。これを使わずして何を使う?というわけで、早速わたくしの史書サイトにAIに日本語に翻訳してもらって導入してみた次第です。
・史書サイト:https://aki-asahi.com/hobby/史書/史書.html
・元ネタ(GitHub):https://github.com/DeanChensj/jiangshan-map
⚔️ 韓信の行軍路を追いかける
まずは国士無双・韓信の行軍路。背水の陣で有名な「井陘口の戦い」、そして川を半分渡らせたところで堰を切って敵を押し流した「濰水の戦い」などの進軍路が見られます。司馬遼太郎の「項羽と劉邦」の内容が、地図上に表示されると妙に現実感を覚えます。
🏔️ 高仙芝、パミールを越える
「タラス河畔の戦い」で有名な高仙芝将軍の行跡も追えます。
ヒンドゥークシュの峠越えに、厳寒のパミール越え。現代人が装備を整えても命がけの行程を、唐の軍勢は馬と人力でやってのけていたのかと思うと、ただただ感動を覚えるのであります。こいつはただの気違いではないぞ?という執念を感じます。
東晋の劉裕(のちの宋の武帝)の北伐ルートなど、その他の有名な軍事行動も、また追々追加していこうと思っております。
📜 「太平寰宇記」という名の睡眠導入剤
江山地図は文句なしに素晴らしいインタラクティブ地図なのですが、他人様が作ったものをありがたがって拝んでいるだけでは芸がない。わたくしも多少はクリエイティブなところを見せねばなるまい、と妙な対抗心が湧いてきまして、そこで宋代の地誌「太平寰宇記」を元に、当時の中国の行政地図をAIに作ってもらうことにしました。この資料、中身はひたすら「この町から何里のところにあの町がある」というような記述の羅列です。以下、焉耆國の箇所引用。
長安を去ること七千三百里、西南は都䕶の治所まで四百里、南は尉犁まで百里、北は烏孫と接する。東は交河城を去ること九百里、西は亀兹を去ること九百里、皆砂磧である。その国は海に近く、水は魚塩蒲葦の利が多い。四面に大山があり、道は険阨にして守り易し。海水は曲がりて四山の内に入り、内はその城を匝ること三十余里。
こういう資料の正しい使い方は、もう地図にしてもらう以外にないでしょう。というわけで、Argonに「太平寰宇記」を読み解いてもらい、地図を描かせてみました。
わたくしが手作業でやったら10年経っても終わらない、いや、3日も経たずに途中で投げ出して永遠に終わらないであろう作業です。さすがのAIでも相当苦戦するだろうと高を括っていたのですが、Argonは20分ほど黙々と思考したかと思うと、涼しい顔ですんなり地図を出してきたのでした。人間の10年がAIの20分。もはや比べるのも失礼な話です。
見事なマップになりましたよ。
正直に申し上げると、内容の検証は「これは明らかにおかしいだろう」という箇所をつまみ食い的にチェックしただけなので、完全に正しいかどうかまでは保証いたしかねます。わたくしがやったことと言えば、AIに「やっといて」と頼んだことくらいなのですが、それでも何だか自分が成し遂げたかのような、妙な満足感があるのでした。地図をポチポチするって、やっぱり楽しいな。でも日本の東あたり書かれている「女國」の内容を見ると「男は人身狗頭でその声は犬吠のようである」のように人間と言うよりも珍獣扱いされていて、一体どんなワンダーランドだよ?と愕然とします。日本に60年近く住んでいるけど、そんなやつは見たことないぞ?と思うけど、所詮中華世界から見たら東夷扱いだから仕方がない。
🔨 人間が打ち込む最後の楔
ただ、おそらく1、2年もしないうちにAIはさらに進化して、こういう歴史まとめサイトは必要なくなる、もしくは存在意義そのものを失うだろうと思います。今でも「韓信の進撃路をマップで描いて解説して」と頼めば、AIはさらっと描いてくれるでしょう。AIトークンを湯水のように溶かす覚悟さえあれば、解説動画だってその気になれば作ってくれるはずです。近い将来、それがもっと身近になり、ほとんどAI任せで済んでしまう時代がやってくる。
そう考えると、人間が能動的に「こういうマップを作ってくれ」と言い出して、歴史という大地に自分の楔を打ち込めるのは、今が最後の機会なのかもしれません。科挙に受かった秀才が「おもろい話を書かんかい!」と原稿を投げつけられていた時代から千年。今度は人間のほうが、AIに原稿を投げつけられる側に回る日も、そう遠くはないのでしょう。
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