そろそろ命のロウソクが尽きかかっているウチの親父ですが、先日、私が役所で古い戸籍を散々漁りまくって作成した「家系図」なる大層なドキュメントを見せたところ、話を語り始めました。
松本駅前300坪と、理不尽な強制徴収
親父の口から出たのは、我が家がかつて松本駅前に300坪ほどの土地を持っていたという話でした。なんでも土蔵があり、鶏も100から200羽ほど飼育し、敷地内には貸し出し用の長屋まで完備しているという、今なら完全に税務署から目をつけられるレベルの裕福なドヤ顔生活を送っていたらしいのです。
「鶏が数百とか、何を言っているのやら(笑)」と半笑いしをした、そこのあなた!今の東京と100年前の長野県松本市を比べてしまう、そのどうしようもねえ無知から来るテメエの教養の低さと脳のセンスの無さ、そして無知から来る傲慢さを一度深く自覚することをマジでオススメするよ。
ところが時代は戦時中。このおめでたい頭の資産家一族に「大日本帝国陸軍」という名の国家権力が迫ります。「接収」という名の合法的な強奪により、何しろ場所は軍都松本です。土地は二束三文で持って行かれたとのこと。しかもその立ち退き作業たるや、中にまだ人が住んでいるというのに、兵隊が家の柱にロープを掛けて大人数で無理やり引っ張って倒壊させるという、戦後に生まれ育った私にはちょっと想像もできない出来事だったそうです。
まるで3Dモデラーでデリートキーを叩くかのように、物理的に家を削除する蛮行。今どき外国人解体屋でもここまで力付くで解体工事をしないだろう。ああ、だから皇軍を深く尊敬している私とは180度違って、ウチの親父は筋金入りの日本軍嫌いなのだなと、私の長年のモヤモヤが見事に氷解した瞬間でした。ただ、どこまで本当のことを言っているのかはわからんよ。
その後一家は平田という松本市でも端っこの方の土地に流れ、人生ゲームの振り出しに戻るという罰ゲームを地で行く転落を果たし、それからというもの延々と地獄のような貧乏生活を強いられたのでした。婆さんは8人の子供を育てるために、モッコを担ぎ土方をして生計を立てるという、今では考えられないような苦労をしたのでした。
米相場という名のギャンブルと、本家の顛末
親父本人は新潟の本家には行ったことがないものの、兄や姉は訪問した経験があるそうです。さぞかし立派な御殿が建っているのだろうと期待して行ったところ、これがまた見事なトラップでした。
どうやら本家の「倉治郎」という御仁が、米相場という名のロクでもない博打で市場から強打をを食らい、見事に破産。その立派な御殿はすでに他人の手に渡っており、当の本家の人間たちは、かつての自分たちの御殿の目の前にある「長屋」にすし詰めで住んでいたという、あまりにも生々しい結末が待っていたのです。
相場なんてものは、いつの時代も中途半端な覚悟で手を出すと、特大の爆弾にしかならないという、良き教訓に他なりません。
教養人・利正と、謎だらけの生業
私の祖父にあたる「利正」についても、これまた不思議な話が出てきました。
当時としては珍しく教養があったらしく、何かイベント事があれば毛筆でささっと見事な字を書いてみせるという、やたらと知識人魂を感じさせるスペックの持ち主だったそうです。
そこで私は思わず、「じゃあ、爺さんの商売(生業)は一体何だったんだ?」と突っ込んでみたのですが、親父の耳の劣化しているのか、はたまた親父自身も本当に知らないまま生きてきたのか、結局、核心を突く回答は引き出せなかったのでした。一体、爺さんは何を生業にしていたんだ?もしかして昔の高等遊民によくある無職だったのかな?働かない賢者気取りだったのか?謎は深まるばかりです。とにかくうちの親父はその父親のことを全く知らないんだよ。だから私が調査しているのな。これは「こう言っては何だけど、本当はお前の仕事なのだぞ?」とその遠い耳に大音声で伝えたいところです。
それにしても解せないのは、それほどまでに教養に溢れていたという利正の妻である婆さん(99歳まで無駄に大往生した)のほうは、控えめに言っても、とても教養の欠片があるようには見えなかったことです。寒村の畑から生えてきて育った根性と生命力が尋常ではない婆さんでした。このあたりのアンバランスさも、ウチの血脈に脈々と流れる「適当さ」のなせる業だろうだと思います。
ロクでもない歴史の果てに
祖父・利正が亡くなったのは親父がまだ10歳ぐらいの頃ですから、親父自身も当時の事情を正確に把握しているわけではないのでしょう。
そもそもウチの親父というかその兄弟たちは、昔から適当な話を吹くという性格をしておりますから、今回聞いた話がどこまで事実で、どこからが思い違い(妄想)なのかは、もはや歴史の闇の中なのです。
いずれにせよ、過去の栄光と没落、そして残されたよくわからないDNA。これが我が家のルーツなのかと思うと、なんとも微妙な気分になる、そんな話でした。結局、謎ばかりが残ったわけで、これ以上突っ込んだ話を聞きたいなら筆談しかなさそうです。