2014年1月16日木曜日

15年ぶりに会った愛すべき馬鹿野郎

先日の月曜日、いつもの通り郵便局に郵便物を出しに行ったのですが、私の場合、郵便物が多く処理に時間がかかるため時間外窓口だと、私の後ろに行列が出来てしまうのです。
その日も、毎度のごとく私が郵便物を出し終わった頃には行列が出来てしまっており、私も「すみませんのぅ、すみませんのぉ」と言い並んでいる皆さんに頭を下げながら郵便局から去ろうとした時、どこかで見たことがあるような職人風体の男を発見。下のイメージのような風体です。


寅壱のロングニッカズボンを穿いているところをみると、本人はなかなかおしゃれをしているつもりだな?と思いながら、声をかけようかと思ったのですが、やたらに職人風体の人に声をかけるの勇気がいりますよね。実は私は20代の頃、パワーショベルの運転手としてこういう世界にいたのです。何を隠そう、私は肉体労働者あがりなのです。

「すみませんが、岡田君ではありませんか?」
と、思い切って声をかけてみたところ、「そうだけど、あなた誰?」ぐらいのことを言われてしまいました。この野郎、昔の同僚を忘れやがるな、ちょっと吹かしてやれということで、

「おお!若い頃、借金を踏み倒しただけではなく、何の罪もない借金取りを殴り倒し、裁判所まで連れて行かれたけど、少年法のおかげで牢屋に入らずにすんだ、あの岡田君ではないか?俺のことを忘れたのか?」

「緑区の○○という飲み屋で、隣で飲んでいた酔っ払いに絡まれて、これまた大して罪のない酔っぱらいを殴り倒し、緑警察の留置所に押し込まれて、次の日に斉藤さん(当時の上司)に身元引受してもらって何とか娑婆に戻れた岡田君、俺のことをまだ思い出せないか?」

と、大きな声で恥ずかしい実話を公表していたら、彼も思い出して、切り返してきた

「ああ!酔っ払ってリサ(女の名前)のアパートに乗り込んで押し倒そうとしたところ、リサの男が突如帰ってきて、ボコボコにぶん殴られて、パンツ一丁のまま春岡から瑞穂運動場まで夜中に命からがら走って逃げてきた、中村君ではないか!」

「ちょっと待て、デタラメ言うな。それは木田君だ。俺が当時つきあっていたのは、リサではなく台湾人のリナだ。思い出したか?誰が妖怪人間リサなんか押し倒すかよ。オレはどこかのゲテモノでも何でも喜んで食べる健康優良児とは違うんだぞ?この野郎」

こんな感じで、昔の調子に戻ってきたところ、他のお客さんたちから顰蹙を買う前に場所を移そうとなって、とりあえず近くのデニーズに行くことになりました。


まあ、こういうのも何ですけど、この男はもう暴れん坊でどうしようもない男だったのです。普段はなかなかいい男なのですが、酔っ払って虫の居所が悪いと後先を全く考えずに暴れる、一種の「突き抜けた男」だったので、もう生きていないかも?と思っていたのですが、まだ生きていたようです。

お互いに、今何をしているのだ?という話から入るわけですが、昔どうしようもなかったこの男が驚いたことに、何がどう間違ったのか、10人の若い者を雇っている一端の親方になってしまっているのです。


なんと一丁前に岡田組だと?すごいではないですか。別に「組」を自称するのに人数制限があるわけではないのですが、やっぱり2人や3人では格好はつかないです。10人もいれば「組」が豪語できる気がします。
そしてやっぱり建設業界は「組」というのがビシッと締まっている感じで良いのですよ。これが「何やらコーポレーション」だと、どうせ口ばっかりで仕事が出来ないだらしない連中だろう?というイメージしか頭に浮かばないのです。

10人の作業員を抱えるというのは、並大抵のことではないですよ。私のところのスタッフは私を除いて3人です。なんというか、私の方がずっと負けています。

この男の何が凄かったかというと、とにかく腕っ節がやたら強い。荒っぽい人間が多かったその会社の中でも一番強かったです。これもまた酔っ払ったときに、その会社の社長とけんかして殴り倒したぐらい強かったのです。その社長だって、どう見ても余程の人間が殴りかかっても負けそうもない大魔神みたいに強かったし、そもそも普通自分が勤めている会社の社長を殴らないよね。こんな感じで「突き抜けている」男なのです。特技は「やたらに人様を殴り倒すこと」と言って構わないでしょう。短く言うと社会不適合者とか、鼻つまみ者ですね。私は殴られる対象でなくて良かった。この岡田君と、私、もうひとりトルコ人の作業員がいて3人が仲良くてよく一緒に飲んでいたのです。
彼のエピソードは、いちいちここに書き連ねていたら大変な量になってしまいますから、またいずれ紹介します。

しかし、その抱えている10人の若い者も、おそらく荒っぽい人間だろうから、そういう若者たちをまとめ上げるのはやっぱり腕っ節が強い人間でないと務まらないのです。決してバカにしているのではなく厳然たる事実として、信仰の対象が「強いかどうか」というメンタリティなのです。彼らの名誉のために付け加えると、彼らは頭脳型の人間にはきちんと一目置きます。しかし頭脳型の人間は別世界の人で、自分の親方としてついていこうとは思わないのです。

何はともあれ、予想外に出世していた岡田君。実に15年ぶりに会ったので、当時一緒に働いていた仲間は今どうしているか?という消息話を聞いていたのですが、
「あぁ、あの人死んだよ」
と結構な人数の人が死んでしまっているのです。なんというか異様な死亡率。死んだって言っても、まだ50代、60代ぐらいではないかという年齢の人たちです。たいがいは酒が原因で臓器を悪くしてしまっているのです。あと体を酷使する仕事というのにも原因があるような気もします。中には自殺という悲しい話もありました。

職人たちの一生は、太く短くなのかなと、少々感慨深く思ったのでした。