思ったよりも重量はないです。もう一台50kgほどの縫製機もついでに輸入してきて、梱包の木箱を含めたグロスウェイトが200kgでしたので、この縫製機の実際の重量は120kg~130kgぐらいではないでしょうか。ネットウェイト(梱包を除いたブツの重量)がわからない場合、税関の場合、グロスウェイト x 0.85で計算をします。
毎度ですが、私がユニッククレーン車を運転しております。玉掛けをする手元は毎度のごとく私の親父です。最近私の親父は耳が遠くなりました。
130kgぐらいだったら、ユニックではなくパワーゲート車で良かったような気もします。
ちなみに上の画像の背景にある「レント」という建物が、このユニック車を借りたところです。
うちの工房のすぐ隣にあるので、ユニックを借りに行くのも楽なのです。
モーターはジーメンスですよ。さすがドイツ製ですね。
1kwぐらいのモーターを積んでいるのかと思ったのですが、500Wですね。意外と小さいです。ウチのミシンに積んでいるサーボモーターと同じパワーです。
かなり昔の機械ですので、おそらくクラッチモーターでもなく、モーターは常に回りっぱなしの状態で、縫製をするときに縫製機のクラッチをつないで縫製をするという感じでしょうね。昔の革漉き機もそんな感じのものがあるのを見たことがあります。
サーボモーターに積み替えられるのでしたら、サーボのほうが使い勝手がいいですよね。
縫製機のクラッチはつなぎっぱなしにして、サーボモーターを制御するフットスイッチをつけて、縫製はモーターで制御して、サーボですからフットスイッチの踏み加減で縫製速度まで調整できる、こうなれば便利この上ないですね。そういうふうにできるかどうか現状わかりませんが。
このメカメカしさが、何とも美しいです。実に美しい機械です。見ているだけで全然飽きません。
プラスチックの部品などどこにも使ってありません。すべて金属でできております。
まだモーターが回らないので、手で重いハンドルを回して、針とAWL、カムの統制された動きを見ているだけで満足度100%。
どうです?ミシン(Sewing machine)というよりも、縫製機(Stitcher)という雰囲気がプンプンしていますよ。俺こそはステッチャーだっ!という堂々とした無言の主張、何と凛々しいことでしょう。
それでもLandisなどの出し縫い機に比べて、だいぶ簡素な気がしますけどね。見た感じでは送りが針送りのみだから簡素なんでしょうかねぇ?私が持っているもう一台の手回し縫製機(Rafflenbeul MS55)と同じぐらいの機構じゃないかな。
正直、糸のかけ方さえわかりません。
針(右側)はグロッツベッケルトのようです。Awlというキリ(左側)も必要なのですよ。Awlで縫製物にまず穴を開けて、その穴に針と糸を通すという、まさに手縫いの工程と同じようなことをやって縫製していくのです。もちろん穴あけは人間がやるのではなく、縫製機がやってくれるのですけどね。
靴縫製用の出し縫い機は、まあそれなりに日本に存在すると思うのですが、こういう角を縫う(手縫いで言うと駒合わせ縫いというのでしょうか)ミシンは、相当珍しいと思います。もしかしたら日本に数台かもしれませんよ。
なぜ希少なのかわかりますか?それは実に簡単な理由で:「需要がない」。これに尽きます。身も蓋もない言い方ですけど、ただそれだけのことです。
この縫製機がどういうふうにすごいのか、簡単なイメージですが、上の図をご覧ください。
こういう角部分を、斜めに針を刺しながら縫製するのです。こういう縫い方は、普通の工業用ミシンでは(フラットベッドでもシリンダーベッドでも)構造的に無理で、ポストミシンを使おうが、八方ミシンを使っても縫製は出来ないのです。LandisやPedersenなどのアウトソールステッチャー(靴の出し縫い機)だと出来ないことはないのでしょうけど、出来たとしてもちょっとやりたくないという感じでしょう。モカ縫いミシンが近いかもしれないけど、これもちょっと違いますね。
実際のカメラケースで説明すると、上のような感じです。
ウチはこの部分を現状では手で縫っているわけで、これを機械縫いにしてみようとそういうわけです。というか、クラッシックなカメラケースはこうだったのです。私がそのクラッシックなカメラケースを作る正当後継者になってやろうという目論見なわけです。
こういう縫製機を使ってカメラケースを作っている業者は、現状私の知る限り存在しません(あったらゴメンな)。
何がすごいのか、おそらくご理解いただけないと思いますが、ご安心ください。私も自分の知らない世界の、例えば陶器を作るロクロがどれだけすごいとか懇々と説明されても、全く理解できる知識はありません。「とりあえず何となく、すごいものらしいということはわかったような気がする」、そんな感想になると思います。
ただわかる人が見れば
「こいつは、とんでもないものを手に入れやがったものだ」
という感想を持つはず。この縫製機の意義を理解できた人がいたら、私はその人に一目置きますよ。希少品ってそういうものですよね。
こういう縫製機の情報は、今まで誰に聞いても
「知らない」
「見たことがない」
「そういう縫製機が浅草の方にあって馬蹄形のコインケースなどを縫製しているらしい」
「イタリアのチカーニという靴用縫製機なら縫えるかもしれない」
「でもチカーニは500万円位するらしい」
「昔の日本製カメラケースもステッチャーで縫製していたけど、今はそういう仕事がなく、職人さんも引退して使える人がいなくなって、機械もどこへとなく消えたらしい」
という憶測の域を出ない情報しか得られなかったです。この10年ぐらい革業界の人と知り合いになるたびに、「こういう縫製ができるものを知らないでしょうか?」と飽きもせずひたすら訊いていたのですよ。
何と言っても、JUKIミシンの方に聞いてもわからないのです。縫製機もとにかく世界が広いですので、専門以外のことはわからなくて当然ですよね。イタリアの縫製機メーカーのチカーニに、画像を送って訊いても、「できるかもしれないなぁ」というぐらいの心許ないお返事でした。チカーニでさえもそういう事例はないようです。
(チカーニ縫製機の驚くべき縫製ビデオ(http://youtu.be/zcfXZMeV25A))
とにかくもうものの見事に誰も知らないのです。これっぽっちも有力な情報が出てこないのです。
しかし、とうとう当店が入手しました。もしみなさんが誰かに、こういう角を突き合わせた部分を縫う縫製機がないか?というご質問を聞かれたら、「Aki-Asahiが持っている」と言ってやってください。売りませんけど、、、。
思えば長かったです。10年探しました、10年ですよ10年。まさに根気ですね。私が生きているうちに入手できて本当によかったです。死んだ後に出てきても何の意味もありませんから。
3ヶ月ぐらい前に「お前の探している縫製機ってこれじゃね?」という感じで、ヨーロッパからひょっこり出て来ました。
昔のカメラケース、いわゆる昔のライカの革ケースにしろ、私が馴染み深い旧ソ連製カメラのケースなどは、明らかに縫製が手縫いではなく総機械縫いなので、一体どんな縫製機で縫っていたのだろうか?と常々疑問に思っていたのですが、こんな感じのステッチャー(縫製機)で縫製をしていたのです。
これを探してきた業者は、カメラケースや双眼鏡ケースを作っていた工場から引っ張ってきた、と言っているので間違いないです。
これで、まさしく当店はドイツで実際にカメラケースを作っていた縫製機を手に入れたことになります。そして当店でこの縫製機を使ってカメラケースを作ったら、ドイツのカメラケースの正当な後継となるわけです。
やっていることのスケールは小さいですけど、よく考えたら歴史的なことですよ。
田中長徳先生、これはすごい歴史的なネタですよ。本気で長徳先生にメールしてみようかな。
ついでに送られてきた取説コピー。
おそらく半世紀前ぐらいの縫製機だと思うのですが、そんな古い時代に、こんな縫い方をする機械が完成されていたのです。ドイツ人は機械じかけに対する執念がすごいですね。
取説の中に描かれているカメラケースは、イコンタのものでしょうか?どこかで見た記憶があるようなケースです。やっぱりイコンタっぽいよね?画像のリンクはこちら。
今でも馬蹄形のコインケースで明らかに機械縫製で駒合わせ縫いをしているものがありますので、ネットなどに情報が出てこないだけで、きっと何処かにはあるのでしょう。
カメラケースでも、私が知っているものでは二眼レフのYashicaMATというカメラのケースがこういう縫い方をしていましたので、おそらく日本にも存在しているか、していたかは間違いないでしょう。海外で作って持ってきたという可能性もありますけど。
モーターの配線がわからんです。5本線ですので、おそらく単相だと思うのですが、220V/380Vを配線で設定するようです。まあ適当につないで試せばいいのですけどね。
モーターは取り替える予定ですので、まあこれはいいや。
この縫製機のメーカーとか型式ですが、長い間探して苦労して入手したわけで、正直誰にも教えたくないので、もう銘板を削って取り外して男らしくスパっと心残りなく捨ててしまいました。
輸入書類も名前がわかるものは全部焼却処分。だから正直申しまして私も知らないのです、、、なんと底意地の悪い、、、。
そして次はモーター交換の巻(http://aki-asahi.blogspot.jp/2013/06/blog-post_15.html)